失敗と感じさせない温かい修了式
児童代表の言葉
修了式。
式次第には、児童代表の言葉というものがあります。 一年間がんばったことを全校生徒の前で発表するのです。 ジャム学級からは、ブドーくんが言うことになっていました。
ブドーくんは、この日のために原稿を書いて、何度も読む練習をしてきました。前日には、ジャム学級のみんなに、リハーサルをして素晴らしい発表をすることができました。体育館でもリハーサルして頑張って言う練習をしていました。
ところが、今日の修了式にブドーくんの姿はありませんでした。 ブドーくんは、朝から極度の緊張状態になり、校舎の廊下で固まってしまったのです。結局、ブドーくんは、式が終わるまで一歩も動かず体育館に入ることはできませんでした。
一方、体育館の中では・・・
式中にもかかわらず、レモくんが、原稿とにらめっこしていました。ブドーくんがいないため、レモくんは急遽代役を務めようとしていたのです。小声で、原稿を読んでみると、スラスラと読むことが出来ました。しかし、レモくんも表情が強ばっていました。
レモ「恥ずかしい。言えない。」
社会モデル
日本が批准、発効した「障害者の権利に関する条約」
この条約の理念は「社会モデル」です。
この場合、レモくんに対して、
「どうして、発表できないの?」
ではなく、
「児童代表の言葉の何が、あなたを発表させなくしているの?」
と考えます。そして、それは「ステージの上に立って、みんなの方を向く」 という行動に起因しています。
その間にも、児童代表の言葉が始まりました。 各学年の代表者がステージの上に上がり、発表を始めました。 レモくんは、一歩も動きません。 そして、全員の発表が終わりました。
私は、マイクをステージから取って、レモくんが座っている場所まで持っていきました。 座ったままならば、全校児童は見えません。しかも、レモくんは体育館の一番後方に座っていました。 マイクを向けても、レモくんは言葉を発することができません。
すると、前に座っていた、交流学級の子供達が、レモくんの方を向いて小さな声で
「レモくん、頑張れ!」 と応援し出しました。
「大丈夫」
「言えるって」
そして、、、
レモ「ジャム学級で頑張ったこと・・・」
話し始めました!
話し始めると同時に、全校の児童が静かに体操座りのまま、レモくんの方に向き直りました。 みんなは座って見ていますが、レモくんは原稿を見ているので、みんなに見られているのに気付きません。
ブドーくんが書いた原稿の内容、それは、
「ジャム学級は一人も見捨てないことを頑張ったということ」
みんなレモくんの代読を静かに聞いていました。 レモくんが、全て言い終わると、体育館中から大きな拍手がわき起こりました。レモくんも、交流学級の友達も、全校児童も、固まってしまったブドーくんのことを暖かくフォローしてくれました。
修了式が終わって、
みんな、ジャム学級に帰ってきました。
ジャム「みんな、ブドーくんのことなんだけど・・・」
リン「そんなこと分かってるって!」
モモ「うん。」
みんなは、ブドーくんの気持ちを分かっていました。 そして、ブドーくんがいないなら代わりに読むのは当然とばかり、レモくんの得意げな顔。
ジャム学級の最後の日は、ジャム学級らしい終わり方となりました。