雲外蒼天~特別支援教育とアクティブラーニング

雲外蒼天~特別支援教育とアクティブラーニング~

実践や経験をストーリーで語ってリフレクションし、自分の強みを探り、それと自分の考え方などを関連させながら次の一手を打つためのブログ

一人ぼっちを見捨てない

その日は、朝から曇り空。天気予報では、午後からにわか雨となる予報でした。

いつも、朝一番に登校してくるのはイチさん。いつもなら、はにかみながら
「おはようございます」
と言ってくれます。ところが、この日は、いつものあいさつがありません。それどころか、
「あー、最悪や。もうー!すかん。」
とイチさんも曇天模様です。

ぶつぶついいながらも、朝の準備をしています。時折、
「いつもやん」
「またやん」
と大きなつぶやきが聞こえてきます。そうこうしているとモモさん、レモさんが登校してきました。
「おはようございます!」
二人はとても元気です。それもそのはず、今日は、週一回行っている幼稚園プロジェクトの日だからです。

 

 今日は、園児達のお正月遊びが楽しくなるような補助をお願いされています。かるたの読み札の読みを教えたり、コマ回しの仕方を教えたりしながら、ジャム学級の子どもたちも一緒に正月遊びを楽しむのです。この日のために、ジャム学級の子どもたちは、休み時間を削ってコマ回しの練習をしていました。自分が回せるようになる過程で、回すコツをつかんでいました。

さて、リンさんとブド-さんもやって来きました。バナさんはお休みなので、今日は5人で行きます。しかし、4人はイチさんのことが気になっていました。イチさんは床にうずくまってどんよりしていました。その一角だけ、暗雲が立ちこめています。

「どうしたと?」
みんなが声をかけますが、返事がありません。
リンさんが時間割を見て気づきました。
「あ、今日体育がある!」
なるほど、今日はイチさんの大好きな体育があります。しかし、その時間と幼稚園に行く時間が被っているのです。
(なあんだそういうことか)
みんなイチさんの暗雲の理由がわかりました。
ブロー「イチさんしょうがないよ。また、体育の時間あるから」
そう、話しかけると、イチさんは大声で言い返しました。
「いつもやん!また体育できんとよ!最悪や!」
(いつも・・・?)
そんなはずはありません。体育と幼稚園プロジェクトは被ることがまずありません。交流学級の先生にも時間割を考えてもらっています。

リン「あ、そういえば、最近ずっと雨でサッカーできんやったもんね」

なるほど、ここ最近の雨天続きで、体育がずっと無くなっていたのです。今日は曇りなので、久しぶりに体育がありそうです。それが3時間目の幼稚園プロジェクトと被ったのです。

「そうか、イチさん、体育がしたかったんだね」

そう言うと、イチさんの目から大粒の涙があふれました。

リン「どうする?」
レモ「体育に行ってもらったら?」
モモ「え、でも、幼稚園にいけなくなるよ」
ブド-「幼稚園にはいかんといかん」

悩んでいるうちに、1時間目が始まってしまいました。しかし、子どもたちはイチさんを放っておきません。すると、

リン「あっ!バナさんのクラス、4時間目が体育やん!」
レモ「じゃあ、幼稚園から帰ってきたらバナさんのクラスでサッカーさせてもらったらどう?」
イチ「いやだ。クラスの友達とサッカーがしたいの!」
子どもたちは、うーんと考え始めました。そして、、、

リン「ジャム先生、イチさんのクラスの体育とバナさんのクラスの体育を交換できませんか?」

ジャム「運動場の使用割を見るとできそうだけど、これは、ジャム学級で勝手に決めていいことではないよ。どうする?」

リン「ぼくたちで、担任の先生にお願いに行ってきます!」
ブドー「それでだめやったら、しょうがないけんね」
イチ「うん」

そうはいうものの、4人はイチさんの下級生。上級生のクラスにいきなり行って、担任の先生に事情を話してお願いするなんて・・。4人ともこういうの大の苦手なんです。でも、4人はそんなこと言ってられない!と言わんばかりにイチさんのクラスに突進していきました。

「先生、イチさんが泣いてて、、、体育が、、」
「うん?イチさんがどうしたの?」
「あの、幼稚園と一緒で、、、サッカーがやりたいって、その、、、」
「3時間目の体育と4時間目の体育を交換してください」
「体育を交換したら良いのね?4時間目ってどこのクラス?」
「バナさんのクラスです」
「じゃあ、バナさんの担任の先生がいいって言ったら交換しても良いよ」
「ありがとうございます!」

そして、バナさんの担任の先生も快くOKしてくれました。

「やったー!」
「変えてくれた!」
階段を早足て降りると、ジャム学級へ。

「イチさん、体育出来るよ!4時間目になったよ」
「幼稚園にも行けるよ」
「よかったね!」

 

イチさんに「我慢しなさい」と行って我慢される方法もあったでしょう。私がそういって、さっと終わらせることもできたでしょう。しかし、子どもたちが凄いのは、イチさんのもやもやの謎を最近の様子や時間割から読み解いて、みんなで寄り添ったことなのです。もし、体育の交換ができなかったとしても、イチさんならきっと納得してくれたと思います。だって、4人がお願いしに行くのが大変って事はイチさんも知っているでしょうから。