一人を見捨てない覚悟
昼休みが終わり、私が教室に入ると、イチくんが勉強していた。
しかし、そのイチくんの表情が冴えない。
「イチくん、どうしたと?」
私が聞くと、堰を切ったように暴れ出した。
「なに?!どうしたの?」
とにかく押さえて、安全を確保する。
別教室に移動する間、イチくんは叫んでいた。
その叫びで、大体何が起こったかをつかむことができた。
イチくんは力が強いが、人を殴ることは絶対にしない。
しかし、今日は怒りが頂点を越えたようで、そこら辺の物を蹴飛ばし始めた。こんなことは初めてだ。別教室に座らせイチくんと話すと、少し落ち着きを取り戻した。そこで、私はすぐに教室に戻った。
ジャム「ブドーくん、どうしてこんなことになったのかな?」
曖昧な問いかけだったが、すぐに答えた。
ブドー「え、、、俺が、嫌なことを言ったから。。。。」
ブドーくんは自分が原因であることをあっさりと認めた。
しかし、ブドーくんはこの言葉を最後に一言も言わず、黙りになった。
程なくして、ジャム学級のみんなが集合した。
ジャム「イチくんには、言われたくない言葉があるのを知ってるよね。あの言葉をちょくちょく言われていて、イチくんはストレスがたまって我慢できなくなってしまった。今日はブドーくんが言ったのだけど、みんなはどうですか?」
イチくんのあの様子を見て、みんな正直に答えた。
レモ「・・・俺も、言ったことある。」
リン「うーん、あるね・・・。」
モモ「・・・・」
ジャム「モモさんは、どっちか覚えていないようだけど、もし、言ってなかったとしたら、あなたはOKだと思う?」
モモ「だめ。」
ジャム「どうして?」
モモ「だって、止めなかったから。」
ジャム「イチくんはこれまでのことをずっと我慢していたんだよ。でも、イチくんは、もう卒業してしまいます。ジャム学級はこのまま終わってしまっていいのかな?」
レモ「だめ」
ジャム「では、どうする?」
「・・・」
レモ「今までのことを謝る!」
今のイチくんの前に行って謝るのは、正直勇気がいるだろう。しかし、それでも謝るというのだ。
レモ「リン、謝ろうよ。モモも一緒に謝ろう。みんなで謝らないと。」
リン「うん」
モモ「わかった」
ブドーくんは黙りのまま、ピクリとも動かない。
でも、みんなブドーくんがこうなるのは知っている。
それだけに、「みんなで謝る」には覚悟がいるのだ。
リンくんとモモさんは、この状況が読める。だから今のブドーくんと直接かかわろうとしない。しかし、レモくんは、場の状況を読むのが苦手だ。
レモくんは、いつも通りブドーくんの側に寄った。
レモ「ブドー、謝るよ!なんでしゃべらんと?」
レモくんは、ブドーくんの体を揺する。しかし、反応は無い。
レモ「ねぇ、何か言ってよ。悪口言ったっちゃろ!」
モモ「謝ろうよ・・・」
リン「レモ、『なんで謝らんと』って聞いた方がいいちゃない?」
やっぱり反応は無い。
ジャム「ブドーくんは、たまにこうなるよね。もしかしたら、謝らないんじゃなくて、謝れなくて困っているのかもしれないよ。」
「じゃあ、どうする?」
3人は考え出した。
時間が過ぎていく。
その様子を、扉の方からイチくんが覗いていた。
(あーあ。。。)
と言いたげな表情だ。イチくんは、そのまま廊下を歩き出す。私は、すかさずイチくんを追っていった。
イチ「トイレに行ってきまーす。」
なんだ、トイレか・・・と思って、教室に戻ろうとすると、
リン「先生!ブドーくんが『うん』って言った!」
ジャム「え?!本当?しゃべったの?」
リン「ほんと、ほんと」
レモ「あのね・・・明日・・・朝早く・・・みんなで集まって・・・イチくんが来たら・・・みんなで・・・ごめんなさいって謝ろう・・・いい?」
ブドー「ぅん」
小さい声だが反応して、頷いたのだ。
そして、ブドーくんは起き上がった。
ブドーくんの黙りモードを3人で解除することができたのだ。
レモ「やった!うんって言った!」
リン「でも、おれ、朝苦手かも」
モモ「遅れんとよ」
イチくんはその様子を見て、「もういいよ」と言って下校した。
イチくんは、自分がクールダウンできたし、みんなが一生懸命考えているということで、もう納得していたのだ。
それを見て、4人は「朝早く集合」という約束をして下校した。
(つづく)