雲外蒼天~特別支援教育とアクティブラーニング

雲外蒼天~特別支援教育とアクティブラーニング~

実践や経験をストーリーで語ってリフレクションし、自分の強みを探り、それと自分の考え方などを関連させながら次の一手を打つためのブログ

一人を見捨てない覚悟

昼休みが終わり、私が教室に入ると、イチくんが勉強していた。
しかし、そのイチくんの表情が冴えない。


「イチくん、どうしたと?」

私が聞くと、堰を切ったように暴れ出した。
「なに?!どうしたの?」
とにかく押さえて、安全を確保する。
別教室に移動する間、イチくんは叫んでいた。
その叫びで、大体何が起こったかをつかむことができた。


イチくんは力が強いが、人を殴ることは絶対にしない。
しかし、今日は怒りが頂点を越えたようで、そこら辺の物を蹴飛ばし始めた。こんなことは初めてだ。別教室に座らせイチくんと話すと、少し落ち着きを取り戻した。そこで、私はすぐに教室に戻った。


ジャム「ブドーくん、どうしてこんなことになったのかな?」
曖昧な問いかけだったが、すぐに答えた。
ブドー「え、、、俺が、嫌なことを言ったから。。。。」
ブドーくんは自分が原因であることをあっさりと認めた。
しかし、ブドーくんはこの言葉を最後に一言も言わず、黙りになった。


程なくして、ジャム学級のみんなが集合した。
ジャム「イチくんには、言われたくない言葉があるのを知ってるよね。あの言葉をちょくちょく言われていて、イチくんはストレスがたまって我慢できなくなってしまった。今日はブドーくんが言ったのだけど、みんなはどうですか?」


イチくんのあの様子を見て、みんな正直に答えた。
レモ「・・・俺も、言ったことある。」
リン「うーん、あるね・・・。」
モモ「・・・・」
ジャム「モモさんは、どっちか覚えていないようだけど、もし、言ってなかったとしたら、あなたはOKだと思う?」
モモ「だめ。」
ジャム「どうして?」
モモ「だって、止めなかったから。」
ジャム「イチくんはこれまでのことをずっと我慢していたんだよ。でも、イチくんは、もう卒業してしまいます。ジャム学級はこのまま終わってしまっていいのかな?」
レモ「だめ」
ジャム「では、どうする?」

「・・・」

 

レモ「今までのことを謝る!」
今のイチくんの前に行って謝るのは、正直勇気がいるだろう。しかし、それでも謝るというのだ。
レモ「リン、謝ろうよ。モモも一緒に謝ろう。みんなで謝らないと。」
リン「うん」
モモ「わかった」
ブドーくんは黙りのまま、ピクリとも動かない。
でも、みんなブドーくんがこうなるのは知っている。
それだけに、「みんなで謝る」には覚悟がいるのだ。

 

リンくんとモモさんは、この状況が読める。だから今のブドーくんと直接かかわろうとしない。しかし、レモくんは、場の状況を読むのが苦手だ。
レモくんは、いつも通りブドーくんの側に寄った。
レモ「ブドー、謝るよ!なんでしゃべらんと?」
レモくんは、ブドーくんの体を揺する。しかし、反応は無い。
レモ「ねぇ、何か言ってよ。悪口言ったっちゃろ!」
モモ「謝ろうよ・・・」
リン「レモ、『なんで謝らんと』って聞いた方がいいちゃない?」
やっぱり反応は無い。


ジャム「ブドーくんは、たまにこうなるよね。もしかしたら、謝らないんじゃなくて、謝れなくて困っているのかもしれないよ。」
「じゃあ、どうする?」
3人は考え出した。
時間が過ぎていく。

 

その様子を、扉の方からイチくんが覗いていた。

(あーあ。。。)

と言いたげな表情だ。イチくんは、そのまま廊下を歩き出す。私は、すかさずイチくんを追っていった。
イチ「トイレに行ってきまーす。」
なんだ、トイレか・・・と思って、教室に戻ろうとすると、
リン「先生!ブドーくんが『うん』って言った!」


ジャム「え?!本当?しゃべったの?」
リン「ほんと、ほんと」

レモ「あのね・・・明日・・・朝早く・・・みんなで集まって・・・イチくんが来たら・・・みんなで・・・ごめんなさいって謝ろう・・・いい?」
ブドー「ぅん」
小さい声だが反応して、頷いたのだ。
そして、ブドーくんは起き上がった。
ブドーくんの黙りモードを3人で解除することができたのだ。

 

レモ「やった!うんって言った!」
リン「でも、おれ、朝苦手かも」
モモ「遅れんとよ」

イチくんはその様子を見て、「もういいよ」と言って下校した。
イチくんは、自分がクールダウンできたし、みんなが一生懸命考えているということで、もう納得していたのだ。

それを見て、4人は「朝早く集合」という約束をして下校した。

 

(つづく)